ラベル 01 きみの微笑みが嬉しくて 第一章 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
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2018年5月16日水曜日

俺の好きな人……(2)

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「いいだろう。これは日常生活ですぐに使える、さらに効果的な方法なんだ」

「なんだかうさんくさいな」

「誠一、やってみもしないで否定するのはよくないと思うな」

「わるかったよ。で、どうすればいいんだ?」

2018年5月15日火曜日

俺の好きな人……(1)

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俺の好きな人……



 俺とカツオは、顔を見合わせた。
 カツオはとまどいながらも、目をとじて、イメージの世界へはいっていく。

 すぐにカツオの肩が揺れだした。
 ファイティングポーズをとり、小さくパンチをくりだしている。
 下唇を噛んで挑発的な表情をつくっているところを見ると、どうやら現役時代のモハメド・アリになった自分をイメージしているらしい。
 ……カツオ、本当に格闘技が好きだよな。

 俺は、賢策に視線を移した。
 目をとじ、かたちのいい顎(あご)に手を当てて微笑を浮かべている。
 女の子ならひと目で惚(ほ)れてしまいそうなくらい絵になる姿だけど、どうせエロいことを考えてるに決まってるんだよな、こいつの場合。

2018年5月12日土曜日

幸せになりたければ(3)

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「要するに」
 賢策がかたちのいい顎(あご)をなでながら、言った。
「金メダルをとったところで幸せじゃなかったってことだよね。ということは、成功を追い求めてがんばったところで無意味だよ、ってことなんじゃないかな」

「金メダルをとったのに幸せじゃないなんて信じられないよ。オリンピックで金メダルをとるのはスポーツ選手にとって最高の栄誉(えいよ)なんだよ。それなのに幸せじゃないって、どういうことなの?」

「僕に訊(き)かれてもこまるんだよね……でも、金メダルをとった本人がそう言ってるんだから、やっぱり幸せじゃないんだよ」

「じゃあ、どうすれば幸せだったんだろう?」

「さあね」

「そういえば彼、言ってたよね。優勝してもすぐに次の大会、次のオリンピックへの期待がのしかかってくるんだって。
 つまりオリンピックで優勝しても、試合のプレッシャーからは解放されないってことだよね。
 それじゃあ、たとえ優れた結果をだせたとしても、スポーツ選手は引退するまで幸せになれないってことなのかな?」

 賢策は肩をすくめ、俺のほうを見やった。

2018年5月11日金曜日

幸せになりたければ(2)

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「そういえばさぁ」
 カツオがポテトを頬張(ほおば)りながら、言った。
「岩田勇造にはほんと、びっくりしたよね」

『びっくりした』というより『がっかりした』という顔だった。
 カツオにとって柔道王・岩田勇造の疲れ果てた姿はかなりショックだったようだ。

2018年5月8日火曜日

幸せになりたければ(1)

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幸せになりたければ



 駅前の繁華街に着いた。
 俺とカツオにとっては遠まわりになるんだけど、帰りは3人で寄り道をするのが日課のようになっていて、言うなれば帰宅部の俺たちにとっての課外活動だった。

2018年5月7日月曜日

ただ人一倍、内気なだけなんだ

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ただ人一倍、内気なだけなんだ



 俺たちの学校は、銀杏(いちょう)並木通りに面して建てられている。
 この並木道はゆるやかな坂になっていて、登校時は上り坂を、下校時は下り坂を進むことになる。
 行きは足取りが重く、帰りは軽い――なんとも理にかなった通学路だよな。

 銀杏の並木道は、いまがいちばん綺麗(きれい)な時期だった。
 秋の風が扇形(おうぎがた)の枯れ葉を宙に舞いあげ、街の景色を黄色くいろどっている。

2018年5月2日水曜日

俺だけは、ちゃんと気づいてるんだ

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俺だけは、ちゃんと気づいてるんだ



 けっきょく岩田勇造はそれっきりひと言も口にせず、モアイが壇上(だんじょう)を引き継いで得意のプラス思考に話題をすり替えたんだけど、モアイの顔には動揺がありありと浮かんでいて、いつもの精彩がなかった。
 ふふっ、あの慌てっぷりはおもしろかったな。

2018年5月1日火曜日

きみは、いつもうつむいてるね(2)

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 校長が演壇にあがり、モアイに何やら耳打ちした。
 理事長、このままだと岩田選手の講演時間がなくなってしまいます――そんなことを言ったのだろう。
 生徒たちのあいだから失笑(しっしょう)が起こった。

 モアイは威厳を見せつけるかのように校長を手で追い払うと、ひとつ咳払(せきばら)いをしてから、格闘技のリングアナウンサーみたいな口調で声を張りあげた。

「それでは演壇にあがっていただきましょう!
 身長186センチ、体重110キロ。
 柔道100キロ超級金メダリスト、岩田勇造選手です!」

 モアイが拍手をうながしながらステージの端(はし)にしりぞいていく。
 生徒たちのあいだから面倒くさそうな拍手が起こった。

2018年4月30日月曜日

きみは、いつもうつむいてるね(1)


第一章




きみは、いつもうつむいてるね



「オリンピック、それはアスリートにとって最大にして最高の舞台であります!」

 モアイの声がいちだんと大きくなった。

「そのような大舞台に出場して金メダルを獲得することは、偉業と言うよりほかありません! そうです、金メダリストとは、まさに『選ばれし者』なのです!」

 にわかの講演会場――体育館のステージに演壇が設(もう)けられ、整然とならべられたパイプ椅子の列に全校生徒がけだるい顔で座っている。

 柔道100キロ超級で金メダルをとった岩田勇造(いわた ゆうぞう)を招いての講演会、というイベントで、モアイはその前説のようなかたちで演壇にあがっているんだけど、これがまたくどい。
 ま、話が長いのはいつものことなんだけどな。