ラベル 03 きみの微笑みが嬉しくて 第三章 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
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2018年7月3日火曜日

人を好きになるって、こういうことなんだよな

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人を好きになるって、こういうことなんだよな



 週が明けて、期末テストがはじまった。
 テスト期間中は出席番号順に席を座り直す。
 そのおかげで、俺はまた暮咲さんのとなりに座ることができた。

2018年6月29日金曜日

きみと、手をつないでいたい

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きみと、手をつないでいたい



 階段をおり、靴箱で靴を履き替え、昇降口をでる――
 いつもは何も感じることなく無意識でやっていることが、今日はなんだかすごく新鮮だった。
 暮咲さんと一緒だと、それだけで何もかもが心地よくて、日常の何気(なにげ)ないことがすばらしいことのように思えてしまう。

 そのあいだ、俺たちは少しだけ会話をした。
 来週から期末テストだね、と俺が言い、暮咲さんがこくんとうなずく。

「テストは好きじゃないけど、でも、楽しみなこともあるんだ」

 俺がそう言うと、暮咲さんは不思議(ふしぎ)そうな顔を俺に向けた。

 俺は、じらすように少し間をおいてから、言った。
「テストのときって出席番号順に席を座り直すから、一学期と席がおなじになるでしょ。そうなると、また暮咲さんのとなりに座れるからね」

 暮咲さんは顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。
 恥ずかしそうなその仕草(しぐさ)はすごく可愛かったけど、俺は反省した。
 暮咲さんが内気だってことを忘れてはいけない。昨日は手をつないだりしたけど調子に乗っちゃダメだよな。思わせぶりな発言は控えるようにしよう。

2018年6月26日火曜日

よかったら、今日も一緒に

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よかったら、今日も一緒に



 授業も、休み時間も、何もかもいつもどおりだった。
 クラスメートたちは気をつかってくれているのか、誰も暮咲さんのことを訊いてこなかったし、暮咲さんをからかうような不遜(ふそん)なやからはひとりもいなかった。

 ほっとした開放感が俺の心を軽くしたためか、俺はいつも以上に機嫌よく過ごすことができた。

 授業中も、昨日の帰り道の記憶を呼び起こしては、ますます上機嫌になった。
 そして、昨日までは切なく見えていた暮咲さんの後ろ姿が、いまはひたすらに愛(いと)しくて、俺は幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。

2018年6月19日火曜日

見られてたのか……

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見られてたのか……



 次の日、俺は遅刻することなく登校した。

 べつに早起きしたわけじゃなく、幸せすぎて眠れなかったんだ。
 ベッドにはいってからも、暮咲さんと一緒に歩いた帰り道のことを思いだしては嬉しくなって、胸が昂(たか)ぶって、ばっちり目が醒(さ)めてしまって、気がつくと朝になってたんだ。

2018年6月15日金曜日

言葉なんてなくても

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言葉なんてなくても



 俺は、暮咲さんと一緒に校門をでた。
 葉がすっかり落ちて「枯れ木通り」と化した銀杏(いちょう)並木を、俺たちは肩をならべて歩いていく。

 ゆるやかな下り坂――うっかりすると暮咲さんよりも前にでてしまうので歩くスピードを抑えなければならない。
 女の子と歩くのって、思ったより気をつかわないといけないんだな。

2018年6月13日水曜日

それじゃ、のあとに

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それじゃ、のあとに



 次の日も、休み時間はクラスメートたちと談笑にふけるばかりで、暮咲さんに声をかけることはできなかった。

 でも、賢策はもう俺をけしかけたりはしなかった。
 昨日、バーガーショップで話し合った結果、休み時間はやり過ごすことに決めていたからだ。

 賢策によれば、暮咲さんのほうもまんざらではないそうだ。
 俺には信じがたいことだけど、かなりの好感触だったらしい。
 そして賢策は、「いま帰り? それじゃ」のあとに、俺が「一緒に帰ろう」って言うのを暮咲さんは期待してたって言うんだ。

 そんなの信じられなくて俺はまっこうから否定したんだけど、でも女の子のことに関しては賢策のほうがずっと上手(うわて)で、けっきょく俺は言いくるめられてしまった。

 そして、俺が次にとるべき行動について、賢策はこうアドバイスした。
「もう休み時間はスルーしたほうがいいよね。ここまできたら、わざわざクラスメートが見ている前で話しかける必要なんてないからね。決戦は――」

 放課後の帰りぎわ、昨日とおなじタイミングだった。

2018年6月12日火曜日

長い一日はまだ終わらない

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長い一日はまだ終わらない



 けっきょく何も行動できないまま、放課後になってしまった。

 俺は、賢策とカツオと一緒に教室をでた。
 カツオは今日もボクシングの練習があるので途中までしか一緒に帰れない。また賢策とふたりでバーガーショップということになりそうだった。

 3人で駄弁(だべ)りながら、昇降口へおりた。

 靴箱の前で、俺はおもわず「あっ」と声をあげた。

 暮咲さんがいた。
 靴箱から靴をとりだしている。

 暮咲さんは俺たちの気配に気づき、顔を俺たちのほうへ向けた。

2018年6月8日金曜日

俺は、不安を募らせているんだ(2)

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「このクラスはいいな、明るくて」
 と、教鞭(きょうべん)をとりにきた教師たちは口々に言う。

 上機嫌の波動はクラス全体に浸透していて、もうすぐ期末テストだっていうのに教室の雰囲気(ふんいき)がやたらと明るかった。

 俺たちの『快』の波動が教師にも伝染したのか、授業にきた教師たちは惜しげもなくテストにでるところを明かしていく。
 この調子だと次の期末テストはクラスの平均点が大幅(おおはば)にあがることだろう。
 おそるべし上機嫌。

2018年6月5日火曜日

俺は、不安を募らせているんだ(1)

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第三章




俺は、不安を募らせているんだ



 一学期のとき、俺と暮咲さんは席がとなり同士だった。

 なんて無口な子なんだろう、と、初めは少しびっくりした。
 ずっと顔をうつむかせていてほとんど喋(しゃべ)らないし、こっちから話しかけても目を伏せたままうなずいたり首を振ったりするだけで口をきいてくれない。
 たまに言葉を口にすることがあっても、声がものすごく小さくてほとんど聞きとれなかった。

 カツオが1年のときに暮咲さんとおなじクラスだったんだけど、カツオによれば、1年のころからずっとそんな感じだったらしい。

 俺は孤立している人を見るとほうっておけないタチなんだけど、さすがにここまで会話が成立しないと話しかけようという気が起こらなくなる。

 暮咲さんはきっとものすごい恥ずかしがり屋さんで、人と話すのが好きじゃないんだ。
 だったら話しかけたりしないで、そっとしておいてあげたほうがいいに決まってる――
 俺はそう結論づけることで納得し、暮咲さんのことは意識しなくなっていた。