**********
第三章
俺は、不安を募らせているんだ
一学期のとき、俺と暮咲さんは席がとなり同士だった。
なんて無口な子なんだろう、と、初めは少しびっくりした。
ずっと顔をうつむかせていてほとんど喋(しゃべ)らないし、こっちから話しかけても目を伏せたままうなずいたり首を振ったりするだけで口をきいてくれない。
たまに言葉を口にすることがあっても、声がものすごく小さくてほとんど聞きとれなかった。
カツオが1年のときに暮咲さんとおなじクラスだったんだけど、カツオによれば、1年のころからずっとそんな感じだったらしい。
俺は孤立している人を見るとほうっておけないタチなんだけど、さすがにここまで会話が成立しないと話しかけようという気が起こらなくなる。
暮咲さんはきっとものすごい恥ずかしがり屋さんで、人と話すのが好きじゃないんだ。
だったら話しかけたりしないで、そっとしておいてあげたほうがいいに決まってる――
俺はそう結論づけることで納得し、暮咲さんのことは意識しなくなっていた。