2018年5月22日火曜日

これからは上機嫌でいく(2)

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 休み時間になった。

 俺は、ずっと暮咲さんの後ろ姿を見ていた。
 暮咲さんは休み時間になっても席を立たない。誰かと話をすることもなく、ずっとうつむいたままだった。
 そんな暮咲さんの姿を見ていると、俺はなぜだか胸が苦しくなるんだ。

 賢策とカツオが、俺のところへやってきた。
 そのこと自体はべつにいつものことなんだけど、ふたりともなんだか様子がおかしい。満面に笑みをたたえて俺のことを見ている。

「なんだよ、おまえら? 何がそんなにおかしいんだ?」

 賢策とカツオは顔を見合わせ、笑顔のまま肩をすくめた。

「誠一、やっぱり忘れてるよ。昨日、3人で約束しただろ。これからは上機嫌でいくって」

「……本気だったのか」

「もちろんだよ。ほら、セーチくんも笑って笑って」

 賢策とカツオが、「ふふふ」、「あはは」と機嫌のいい笑顔で俺にせまってきた。


 クラスメートたちがいぶかしげな目でこっちを見ている。
 しかも、女子の何人かがこっちを指さしてクスクス笑っているではないか。

「やめろ、おまえら! いくらなんでも学校でやるのは恥ずかしすぎる。場所をわきまえろ!」

「セーチくん、人目(ひとめ)を気にしてちゃ、いますぐ幸せになることはできないよ」

「心配するな誠一、僕のやることはことごとく正当化されるんだ。僕と一緒にやれば何も恥ずかしがることはない」

「どういう理屈だよ、それ」

 左右から挟(はさ)み撃ちのかっこうで、ふふふ、あはは、と満面の笑みを浴びせかけられる。

 くそっ、もうどうにでもなれってんだ!
 俺は、にかっと笑顔をつくって、「ははは!」とバカみたいに笑い返してやった。

 俺たちは意味もなく笑い合った。
 カツオなんて窒息しそうなくらい顔を真っ赤にして笑っている。
 クラスメートたちが遠目(とおめ)に俺たちのことを見て笑っていた。

 ふいに、暮咲さんが後ろを振り返った。
 俺たちの上機嫌な笑い声をふしぎに思ったのだろう。驚いたように目を見開いてこっちを見ている。

 一瞬、目が合った。

 暮咲さんは、あっという表情を浮かべて前に向き直り、何も見ていません、と言わんばかりに顔を伏せてしまった。

 変に思われたんだろうな、やっぱり……。

 でも、もうとまらない。
 いったん上機嫌に笑いだしたら、もうとめられないんだ。

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