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休み時間になった。
俺は、ずっと暮咲さんの後ろ姿を見ていた。
暮咲さんは休み時間になっても席を立たない。誰かと話をすることもなく、ずっとうつむいたままだった。
そんな暮咲さんの姿を見ていると、俺はなぜだか胸が苦しくなるんだ。
賢策とカツオが、俺のところへやってきた。
そのこと自体はべつにいつものことなんだけど、ふたりともなんだか様子がおかしい。満面に笑みをたたえて俺のことを見ている。
「なんだよ、おまえら? 何がそんなにおかしいんだ?」
賢策とカツオは顔を見合わせ、笑顔のまま肩をすくめた。
「誠一、やっぱり忘れてるよ。昨日、3人で約束しただろ。これからは上機嫌でいくって」
「……本気だったのか」
「もちろんだよ。ほら、セーチくんも笑って笑って」
賢策とカツオが、「ふふふ」、「あはは」と機嫌のいい笑顔で俺にせまってきた。
クラスメートたちがいぶかしげな目でこっちを見ている。
しかも、女子の何人かがこっちを指さしてクスクス笑っているではないか。
しかも、女子の何人かがこっちを指さしてクスクス笑っているではないか。
「やめろ、おまえら! いくらなんでも学校でやるのは恥ずかしすぎる。場所をわきまえろ!」
「セーチくん、人目(ひとめ)を気にしてちゃ、いますぐ幸せになることはできないよ」
「心配するな誠一、僕のやることはことごとく正当化されるんだ。僕と一緒にやれば何も恥ずかしがることはない」
「どういう理屈だよ、それ」
左右から挟(はさ)み撃ちのかっこうで、ふふふ、あはは、と満面の笑みを浴びせかけられる。
くそっ、もうどうにでもなれってんだ!
俺は、にかっと笑顔をつくって、「ははは!」とバカみたいに笑い返してやった。
俺たちは意味もなく笑い合った。
カツオなんて窒息しそうなくらい顔を真っ赤にして笑っている。
クラスメートたちが遠目(とおめ)に俺たちのことを見て笑っていた。
ふいに、暮咲さんが後ろを振り返った。
俺たちの上機嫌な笑い声をふしぎに思ったのだろう。驚いたように目を見開いてこっちを見ている。
一瞬、目が合った。
暮咲さんは、あっという表情を浮かべて前に向き直り、何も見ていません、と言わんばかりに顔を伏せてしまった。
変に思われたんだろうな、やっぱり……。
でも、もうとまらない。
いったん上機嫌に笑いだしたら、もうとめられないんだ。
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