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幸せになりたければ
駅前の繁華街に着いた。
俺とカツオにとっては遠まわりになるんだけど、帰りは3人で寄り道をするのが日課のようになっていて、言うなれば帰宅部の俺たちにとっての課外活動だった。
俺たちはいつものバーガーショップでいつもとおなじセットを頼み、2階にあがっていつもの席に陣取った。
カツオは俺のとなり、賢策は俺の向かい側、といういつものフォーメーションで座席に着く。
賢策は長い脚(あし)を組み合わせ、気取った仕草(しぐさ)でポケットから携帯をとりだしたものの、電源を切っていることに気づき、またポケットにもどした。
俺は、賢策に言った。
「いいのか? マユミちゃんから電話あるんだろ?」
マユミちゃんというのは賢策の彼女のことだ。
中学時代の同級生で、そのころから付き合っているそうだ。
賢策が一度、勝手についてきた、と言って俺たちに紹介したことがある。
黒髪のすごく真面目(まじめ)そうな感じの子だった。
別々の高校に進学したいまでも一途(いちず)に賢策のことを想いつづけていて、俺たちが3人でたむろしているあいだにも賢策の携帯にたびたび電話がかかってくる。
そのたびに賢策は「ああ」とか「おう」とか短い受け答えをして、すぐに切ってしまうのが常(つね)だった。
「いいんだよ、べつに」
賢策は面倒くさそうに言った。
「向こうから勝手にかけてきてるんだし、でないといけない義務なんて僕にはないんだからね」
「さすが女の敵、自分の彼女にも冷たいんだな」
「その言い方はよしてくれないかな。僕は誰もが認めるラブマスターなんだよ。プライドが傷つくな」
「俺には、モテるのをいいことに女をもてあそんでるようにしか見えないけどな」
「誠一たちにもいずれわかるときがくるよ。彼女ができるなり童貞をすてるなりすればね」
それを言われると、俺とカツオは何も反論できなくなる。
俺たちはまだ女の子と付き合ったことがない。ましてや女の子とあんなことをするなんてSFやファンタジーにひとしいくらい空想上の世界なんだ。
経験論をふりかざして恋愛を語られると、俺たちは何も言えなくなってしまう。
「男が女にナメられたらそこでおしまいなんだよ、恋愛はね」
賢策が、付けたすようにぼそっと言った。
経験のない俺に恋愛についてどうこう言う資格なんてないのかもしれないけど、でもな賢策、俺はおまえのことをラブマスター(恋愛の達人)だなんて認めないぞ。
おまえはやっぱり『女の敵』だ。
いつか彼女ができたら絶対に見返してやる。
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