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『でもまあ、告白が先とか後(あと)とか、そんなことにこだわる必要はないと思うな。
実際、明日にはもう親御(おやご)さんに会わなくちゃならないんだし、いまは明日をうまく乗り切ることに専念したほうがいいんじゃないかな』
「……暮咲さん、どうして急に叔父さんに会ってほしいなんて言いだしたんだろう?」
『べつに不思議(ふしぎ)なことじゃないよ。女の子は公認が好きなんだ。クラスメート公認になったんだから、今度は親公認を望んだとしても、自然な流れだと思うな』
たぶん賢策の言うとおりなんだろうけど、でも、なんとなく納得がいかないんだよな。一般の女の子とおなじ感覚で暮咲さんのことを推(お)しはかること自体、正しくないような気がするし……。
いや、それは俺の偏見かもしれない。
恥ずかしがり屋さんで口数(くちかず)も少ないけど、暮咲さんだって女の子なんだ。ふつうの女の子とおなじ恋愛観をいだいてたっておかしくないよな。
「そっか、公認か……俺の家族にも紹介したほうがいいのかな?」
『とりあえず、明日をうまく乗り切ることだけを考えなよ』
賢策はしばし間をおいてから、しみじみと言った。
『……それから記念日も好きだよね、女の子って。
男にしてみれば些細(ささい)なことでもしっかり覚えていて、なんでも記念日にしちゃうんだ。これって増えるいっぽうだし、ほんと、記念日だらけで大変だよ』
「記念日って、マユミちゃんとか?」
『最近はマユミとだけだね』
「ちゃんと仲よくやってるみたいだな」
『まあね。上機嫌をはじめてから、女の子ってのは大切にしてあげたほうがずっと可愛いもんなんだって気づかされたよ。僕の恋愛観が正しくなかったことを思い知らされて、正直、いまとなっては自分が恥ずかしくなるよ』
それから賢策は『女の子のご家族に会うときの心得』を俺に伝授した。いちおう真面目(まじめ)に相談に乗ってくれてたみたいだ。
やっぱり持つべきものは友達だよな。もしうまくいったら賢策のことをラブマスター(恋愛の達人)だと、少しぐらいは認めてやってもいい。
『話は変わるけど――』
ひととおり語り終えたところで、賢策は言った。
『最近、カツオの様子がおかしいと思わないか?』
「おかしいって、どんなふうに?」
『なんだか元気がないって言うか、深刻になってるって言うか……人前では上機嫌なそぶりを見せてるけど、なんとなくムリしてるように見えるんだよね』
「そうか? 気のせいだと思うぞ」
『……だといいんだけど』
「あいつはいま、プロボクサーを目指して毎日ハードな練習をしてるんだ。テスト期間中もジムに行ってたみたいだし、疲れが少したまってるんだろ」
そう言って、俺は賢策の懸念を一蹴(いっしゅう)した。
実際、カツオのことは何も心配していなかった。
いまはボクシングジムに籍をおいてがんばってるんだ。へたれだったころのように俺たちが心配ばかりしてたんじゃ、カツオに対して失礼だもんな。
とにかくいまは、明日を乗り切ることに集中しないとな。
だいじょうぶか、俺?
うまくやれるかな……。
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