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第四章
賢策に相談は人選ミスか?
俺は、帰宅してからもずっと落ち着かなかった。
家の者たちに話し声がもれないように部屋の扉に鍵をかけ、賢策に電話をかけた。
『女の敵』と知りながら、恋愛のことでほかに相談できる相手がいないのがわれながら悲しい。
暮咲さんに「家にきてほしい」と誘われたことを電話越しに話すと、賢策は冷やかすようにヒューッと口笛を鳴らし、出鼻から人選ミスを懸念(けねん)させた。
『もう女の子の家に行くなんて、なかなかやるじゃないか。誠一、またひとつ男をあげたね、偉いぞ』
「からかうな。俺はマジで悩んでるんだ」
『悩むことなんてないと思うな、いいことなんだし。
それに、女の子の家に行ったら、あんなことやこんなことをしたりして、それでもってあんなことも――』
「やめろ、バカ! 相手は暮咲さんなんだぞ。そういうことを想像するな!」
『おいおい、なんのことだ? 僕が言ってるのは、女の子の手料理を食べたり、女の子の部屋で一緒にアルバムを見たり、そういったことを言ってるんだよ』
「…………」
『誠一、さてはエッチなことを想像してただろ?』
……こいつ、絶対わざとだ。やっぱり人選をミスったかもしれない。
「だから、女の子の家に行って仲よくとか、そういう感じの誘いじゃないんだ。なんでも、叔父さんと会って話をしてほしい、ってことらしいんだけど……」
賢策が、ワァオ、とわざとらしく驚いてみせた。
『もう親御(おやご)さんと会うなんてたいしたもんだ。さすが僕の弟子、やることが抜け目ないよね』
「勝手に弟子にすんな。それに、親じゃなくて叔父さんだ」
『どっちにしたって保護者なんだから、おなじようなもんだよ』
こいつ、真面目(まじめ)に聞く気あんのか?
不安を募(つの)らせながらも、俺は肝心なことを訊(き)いてみた。
「なあ、叔父さんに会ってほしいって、どういう意味だと思う?」
『べつに深い意味なんてないんじゃないかな。単純に、家の人に紹介したいだけだと思うけど』
「紹介って……俺たち、まだ付き合ってるわけじゃないんだぞ」
『そうなのか? 誰がどう見ても仲のいい恋人同士にしか見えないけど』
顔から火がでた。きっと真っ赤になってるにちがいない。
電話でよかった。面と向かっていたら賢策にからかうネタを与えてしまうところだ。
「つ、付き合っているわけじゃない、と思う……まだ告白もしてないし……」
『だったら早くしちゃいなよ』
「しちゃいなよって言われても……どうすればいいんだ?」
『ふつうでいいんじゃない。相手は内気な暮咲さんなんだし、凝(こ)った演出なんていらないと思うな。
ふつうにちょっと景色のいいところへ連れて行って、ふつうにいつから好きだったのかを語って、最後に「好きです、付き合ってください!」ってふつうに叫べばいいんじゃないかな』
「叫ぶのか、ふつう!?」
そんなのムリだ。いくらなんでも恥ずかしすぎる。
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