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これって、デートだよな
土曜日だっていうのに俺はやたらと早起きした。
というより、ほとんど眠れなかったんだ。
昨日、賢策に教わったことを反芻(はんすう)し、俺はイメージ・トレーニングをくり返した。
暮咲さんの叔父さんがどういう人なのかはわからないけど、ごく一般的なサラリーマンっぽい人を想定して、頭のなかでシミュレーションを積み重ねた。
これで心の準備はできたはずだ。あとは『上機嫌』を心がけてさえいればなんとかなるだろう。
今回も頼むぞ、上機嫌。
待ち合わせ場所は、暮咲さんの最寄(もよ)り駅だった。
約束の時間は11時半。
俺はそれに間に合うように、余裕をもって家をでた。
今日の俺は、青のカッターシャツに冬物のブレザー、下はジーンズにハイカットスニーカーという出で立ちだ。
「ラフすぎず、かしこまりすぎず」というのが賢策のアドバイスだった。
『とにかく清潔感が最優先だよ。もしいい服がなかったら、学校の制服を着て行ったらいい。制服は好感度が高いからね』
とはいえ休みの日までわざわざ制服を着たくはなかったし、暮咲さんにいつもとはちがう俺を見せるチャンスでもあるのだから、俺なりに私服でかっこつけてみたつもりだ。
だいじょうぶだよな?
俺は駅へ向かう道すがら、この道を暮咲さんと手をつないで歩いた日々を思いだし、幸せな気持ちになった。
いいぞ、俺は今日も上機嫌だ。
下りの電車に乗った。
土曜日だというのに、けっこうスーツ姿のサラリーマンっぽい人が多いことに驚かされる。
いまどき土曜日も休める会社ってあまりないのかもしれないな。ウチの高校みたいに私立でありながら週休二日制の学校って少ないって言うしな。
暮咲さんの叔父さんって土曜日も休みなんだろうか?
もしかして、たくさん休みがとれるような重役クラスの偉い人だったりして……。
やばい、なんだか緊張してきた。
俺は慌てて暮咲さんの笑顔を思い浮かべた。
この試みはうまくいった。
幸せな気持ちが胸にわきあがってきて、俺は上機嫌をとりもどした。
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