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俺は、好きだからこそ
期末テストの返却期間になった。
俺たちのクラスは、予想どおり平均点が大幅(おおはば)にあがっていた。
各教科の教師たちがあれだけ露骨にでるところを漏らしたのだからとうぜんの結果だ。
俺の成績は、思っていたよりもだいぶよかった。
つねにクラスの真ん中付近を維持してきた俺が、上位と言われるところまで順位があがっていた。
休み時間になると、いつもどおりクラスメートたちが俺のまわりに集まってきて談笑がはじまった。
なかには『暮咲さんはいいのか?』といった顔を向けてくるやつもいたけど、それを口にだしたりはしなかった。
彼らの中心で、俺はうまく上機嫌をふるまっていた。誰がどう見ても上機嫌なはずだ。
だけど、感情はともなっていなかった。
いまの俺は、正確におなじことをくり返す精巧なロボットだった。習慣によってプログラムされたとおりに、ただ生きてる。
賢策が、ほかのクラスメートたちがいないときを見はからって、
「どうだった?」
と尋ねてきた。
暮咲さんの家に行ったときのことを訊かれているとわかった俺は、
「ああ、ちょっとな……」
と曖昧(あいまい)な答えを返した。
人に話せるようなことではない。
賢策やカツオでも、話すわけにはいかなかった。
賢策は察してくれたらしく、「そっか」とだけ言い、それ以上は訊いてこなかった。
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