2018年9月11日火曜日

そんなの、決まってるよな

**********

そんなの、決まってるよな



 それから俺たちは、カツオのために『どうすれば』を考えた。

 どうすればこの状況でボクシングをつづけられるのか?
 どうすればボクシングを楽しめるのか?
 どうすれば次のステップへ進めるのか?

 トレーナーがほかの練習生に教えているのを盗み聞きして、テクニックを覚えてしまう。
 ボクシングの教本や教則ビデオを使って、独学でテクニックを学ぶ。
 カツオが憧(あこが)れているモハメド・アリやシュガー・レイ・レナードの試合映像をくり返し観て、闘い方を模倣(もほう)する。

 そうやってトレーナーに頼ることなく自力でボクシングを覚え、あるていど自信がついたところでほかのジムに移籍する。
 そのころにはもう素人(しろうと)ではなくなっているから、『センスのいいやつがプロ志望ではいってきた』みたいな感じになって、新しいジムでは期待されることになる――

 3人でアイデアをだし合った結果、その結論に達した。
 真剣に『どうすれば』って問いかければアイデアは思ったよりも簡単にでてくることに、俺たちは少なからず驚いていた。

「オレ、いまからジムに行くよ」
 カツオはじっとしていられないといった様子で、席を立った。
 その目は、ボクシングをはじめたときとおなじ光をはなっている。

「セーチくん、賢策くん……ふたりとも本当にありがとう!」
 カツオは笑顔で言い、店を飛びだしていった。

 難題を解決したことによる達成感が、どっと押し寄せてきた。
 俺はほっと息をついて、心地(ここち)のいい脱力感にひたった。

 気がつくと、賢策がにやにや笑いながら俺のことを見ていた。

「なんだよ、変な笑い方して」

「誠一はいいのかな、『どうして』を考えなくて?」
 賢策は、まるですべてを見透かしているかのように言った。

 そう、俺はカツオに自分の姿を見てたんだ。
 そして、カツオに言った言葉は、俺に向けて言った言葉でもある。
 好きで、やっと変われて、ようやくつかんだ『いま幸せ』なんだ。何があっても手放したくない。このまま終わらせたくない。
 それが俺の本心なんだ。

 俺は、どうすればいい?

 ……………。
 …………………。
 …………………………。

 そんなの、決まってるよな。

「ごめん、俺も行くわ」

 賢策は目を丸くした。
「誠一の悩みは話し合わないのか?」

「必要ないよ。どうするべきかなんて、本当はわかってたんだ」

 俺は店を飛びだして、駅に向かった。
 無我夢中(むがむちゅう)で、走った。

 少しでも早く、暮咲さんに会うために――

 続きを読む