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そんなの、決まってるよな
それから俺たちは、カツオのために『どうすれば』を考えた。
どうすればこの状況でボクシングをつづけられるのか?
どうすればボクシングを楽しめるのか?
どうすれば次のステップへ進めるのか?
トレーナーがほかの練習生に教えているのを盗み聞きして、テクニックを覚えてしまう。
ボクシングの教本や教則ビデオを使って、独学でテクニックを学ぶ。
カツオが憧(あこが)れているモハメド・アリやシュガー・レイ・レナードの試合映像をくり返し観て、闘い方を模倣(もほう)する。
そうやってトレーナーに頼ることなく自力でボクシングを覚え、あるていど自信がついたところでほかのジムに移籍する。
そのころにはもう素人(しろうと)ではなくなっているから、『センスのいいやつがプロ志望ではいってきた』みたいな感じになって、新しいジムでは期待されることになる――
3人でアイデアをだし合った結果、その結論に達した。
真剣に『どうすれば』って問いかければアイデアは思ったよりも簡単にでてくることに、俺たちは少なからず驚いていた。
「オレ、いまからジムに行くよ」
カツオはじっとしていられないといった様子で、席を立った。
その目は、ボクシングをはじめたときとおなじ光をはなっている。
「セーチくん、賢策くん……ふたりとも本当にありがとう!」
カツオは笑顔で言い、店を飛びだしていった。
難題を解決したことによる達成感が、どっと押し寄せてきた。
俺はほっと息をついて、心地(ここち)のいい脱力感にひたった。
気がつくと、賢策がにやにや笑いながら俺のことを見ていた。
「なんだよ、変な笑い方して」
「誠一はいいのかな、『どうして』を考えなくて?」
賢策は、まるですべてを見透かしているかのように言った。
そう、俺はカツオに自分の姿を見てたんだ。
そして、カツオに言った言葉は、俺に向けて言った言葉でもある。
好きで、やっと変われて、ようやくつかんだ『いま幸せ』なんだ。何があっても手放したくない。このまま終わらせたくない。
それが俺の本心なんだ。
俺は、どうすればいい?
……………。
…………………。
…………………………。
そんなの、決まってるよな。
「ごめん、俺も行くわ」
賢策は目を丸くした。
「誠一の悩みは話し合わないのか?」
「必要ないよ。どうするべきかなんて、本当はわかってたんだ」
俺は店を飛びだして、駅に向かった。
無我夢中(むがむちゅう)で、走った。
少しでも早く、暮咲さんに会うために――
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