**********
これが俺の『いま幸せ』なんだ
俺と暮咲さんはいま、市民公園の遊歩道を歩いている。
もちろん、俺たちの手はちゃんとつながっている。
クリスマス・イブに大好きな女の子と一緒に過ごせるなんて、本当に夢みたいだ。
一般的にこういう日のデートってのはもっと遠出(とおで)して非日常的なイベントを満喫(まんきつ)するものなんだろうけど、相手は暮咲さんなんだし、やっぱりなじみがあって落ち着ける場所のほうがいいだろうって思ったんだ。
暮咲さんはいま、俺のすぐ横ですごく楽しそうな笑みを浮かべていて、俺の選択は正しかったとひそかに満足しているところだ。
空は青く晴れ渡っている。
ホワイトクリスマスになる気配はないけど、こうして暮咲さんと一緒にいると、目に映(うつ)るすべての景色がとても美しく見えた。
ちなみにクリスマスのプレゼントは、俺からは可愛らしい柄(がら)のはいったミトンを贈り、暮咲さんからは渋くて大人っぽい革の手袋が贈られた。
ふたりともおなじようなものを用意したことがおかしくて、俺たちは顔を見合わせて笑った。
そして、そのミトンと手袋はいま、それぞれ片方だけがもちいられ、俺たちが手をつないでいないほうの手を温めてくれている。
俺は、猫たちがいるベンチの前で足をとめた。
もっとも、いまは猫の姿はなく、あたりには人の気配もない。
すごく静かだ。
俺は、暮咲さんの手をそっとはなして、真正面から向かい合った。
「暮咲さん……今日は、俺、どうしても暮咲さんに伝えたいことがあるんだ」
俺の緊張した様子から、これから何を言おうとしているのか察してくれたらしい。
暮咲さんは真剣な面持(おもも)ちで、こくん、とうなずいた。
俺はまだ、暮咲さんにちゃんと告白していなかった。
今日こそは絶対に想いを伝えるんだって、決意をかためていた。
俺は深呼吸をして緊張をほぐし、そして、家でくり返し練習したフレーズを、暮咲さんの目を見ながらゆっくりと口にだした。
「一学期の中間テストのあの日、初めて暮咲さんの笑った顔を見たんだ。
あれからずっと、暮咲さんのことが気になってた。
いまにして思えば、俺はあのときからもう暮咲さんのことが好きだったんだ」
好き、という言葉に反応して、暮咲さんの顔が真っ赤になった。
しまった、暮咲さんが恥ずかしがり屋さんだってことをすっかり忘れてた。
だからってここでやめるわけにはいかない。
真っ赤になりながらも目をそらさずに見つめてくれている暮咲さんに向かって、俺は慎重(しんちょう)に言葉をつむいだ。
「暮咲さんは、俺が笑うと嬉しくなるって言ってくれたけど、それは俺もおなじだよ。
暮咲さんが笑ってくれると嬉しくて、暮咲さんが笑っているときに一緒に笑うことができたらもっと嬉しくて、すごく幸せな気持ちになるんだ。
だから、だから……」
俺は深く息を吸いこみ、そして一気に、
「俺と付き合ってください!」
叫んだ。
叫ぶつもりじゃなかったんだけど、おもわず力がはいってしまったんだ。
暮咲さんはびっくりした目で俺の顔を見つめている。
やがて、小さく吹きだすようにしてふふっと笑い、こくん、とうなずきながら、
「はい」
と答えてくれた。
ああ、よかった……絶対にだいじょうぶだって信じてはいたけど、やっぱり不安で、気が気じゃなかったんだ。
「俺たち、これで正式に恋人同士だね」
ほっとした勢いでつい言ってしまい、暮咲さんを真っ赤にさせてしまった。
またやっちゃったよ、どうして俺はこうも学習能力がないんだ。
気がつくと、俺たちのまわりに猫が集まっていた。
俺たちを見あげて、祝福の言葉を投げかけているみたいにミャアミャアとあまい声をあげている。
さっきまでいなかったのになんていいタイミングであらわれるんだ。猫は直感がするどいって言うけど、空気読めすぎだよ。
嬉しいけど。
続きを読む