序
モテるってどういうことだと思う?
「2年B組、須藤賢策(すどう けんさく)くん……」
昇降口をでたところで、賢策は女の声に呼びとめられた。
振り返ると、思いつめた表情の女子生徒が立っていた。
不安そうな目で賢策の顔を見つめている。
また告白か、と、賢策は思った。
以前の賢策であれば、この状況を楽しんでいたことだろう。
相手の想いにも喜んで応(こた)えていただろう――遊びとして。
以前の賢策であれば、この状況を楽しんでいたことだろう。
相手の想いにも喜んで応(こた)えていただろう――遊びとして。
だが、いまの賢策はちがう。
告白を歓迎する気持ちになどなれない。
「僕のことをいきなりフルネームで、しかも学年とクラス付きで呼びとめておきながら、自分は名乗らないつもり?」
警戒心が、声に棘(とげ)となってあらわれていた。
女子生徒は、あっと小さく声をあげ、おどおどした様子で目をふせた。
「ご、ごめんなさい……わ、わたしは、幸坂美冬(こうさか みふゆ)……3年C組」
3年生か……。
そして、いまは2月――卒業まであと1ヶ月たらずだ。
おそらく『この学校を卒業してしまう前に、ずっと胸に秘めていた想いを伝えたい』と決心しての行動なのだろう。
賢策のほうは彼女のことを知らないが、でも彼女のほうはずっと賢策に憧(あこが)れていたにちがいない。
「あ、あの……」
幸坂美冬は目をふせたまま、少し震える声で言った。
「わ、わたし、須藤くんに話があるの……聞いてもらえるかな」
やっぱりそうか、と賢策は思った。
「いいだろう。聞こうじゃないか、きみの話とやらを」
賢策の声には、またしても棘があらわれていた。
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