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幸坂美冬に導かれて、賢策は校舎裏に移動した。
あたりには誰もいない。
幸坂美冬はひどく緊張した様子で、何やら言いづらそうに口ごもっている。
このシチュエーションはどう考えても告白としか思えない。賢策は心を構えて相手の言葉を待った。
沈黙が流れた。
やがて、幸坂美冬は意を決したかのように言った。
「須藤くん! モテるようになる方法を教えて!」
「……いま、なんて言った!?」
「わたし、モテるようになりたいの!」
意表(いひょう)をつかれた。
予想外の言葉に驚いたものの、しかし顔にはださない。賢策は落ちついた態度で問い返す。
「どうして僕にそんなことを?」
幸坂美冬は答える。
「……わたし、この学校を卒業するのと一緒に『彼氏ができない自分』からも卒業したいの」
またしても意外な答えだった。
「わたし、何度も恋をしてるのに、一度もうまくいったことがなくて……高校生活の3年間で7回も失恋した……中学のときからかぞえると12回も失恋してる……
ものごころがついてからたくさんの恋をしてきたのに、わたし、一度もうまくいったことがなくて……いつも片想いばかりで、つらくて、苦しくて、悲しくて……」
幸坂美冬の声は、消えいるようにして途絶(とだ)えた。
察するに『恋人がほしいと強く願うあまりに異性を意識しすぎて、かえってダメな恋愛をしてしまう』というタイプなのだろう。自己否定感が強い人間にありがちなパターンだった。
幸坂美冬は悲しげに顔をうつむかせていたが、ふいに視線をあげ、すがるような眼差しで賢策を見つめた。
「人気アイドルの五代修也(ごだい しゅうや)によく似たイケメンで、自分のことをラブマスターと名乗っているめちゃモテ男子――須藤くんのことをみんなからそう聞いたの。
だから、須藤くんなら、モテるようになる方法を知っているんじゃないかって思って……
須藤くんなら、わたしをうまくいかない恋愛から卒業させてくれるんじゃないかって思って、それで、わたし……」
「なるほどね、言いたいことはだいたいわかったよ。でも、いくつか引っかかるところがあるよね。
まず第一に、『自分のことをラブマスターと名乗っている』って言いまわしは気にいらないな。僕は『自他ともに認めるラブマスター』なんだよ。僕が自称してるだけみたいな言い方は、僕に対して失礼なんだよね」
「ご、ごめんなさい……」
「それから、もうひとつ――『うまくいかない恋愛から卒業したい』という願いが、どうして『モテるようになる方法を教えてほしい』になるんだ?」
「えっ!? だって、異性にモテるようになれば、恋愛はうまくいくから……」
まったく、なんて思いちがいをしてるんだ!
怒りがこみあげてきた。でも熱くなってはいけない。賢策は自分に言い聞かせる。
あくまでもクールに憤(いきどお)るんだ。
「……モテるって、どういうことだと思う?」
「え?」
「モテる、という意味を、ちゃんと考えたことはあるのかい?」
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