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幸坂美冬は驚いた表情のまま固まっている。
やがて、叱られた子供みたいにうつむき、黙りこんでしまった。
この様子では、自分で答えをだすことなどできそうにない。
「いいかい、モテるってことは――」
声が熱くなりかけている。
落ちつけ、クールに諭(さと)すんだ――賢策は自分に言い聞かせる。
「モテるってことは、複数の異性に好かれるってことなんだ。でも、恋人として交際する相手はひとりだけ――つまり、モテるってことは、自分を好きになってくれた人たちを傷つけるということなんだ!」
最後のフレーズは、おもわず熱くなった。
幸坂美冬は唖然(あぜん)となっている。
やはり『モテる』という意味を考えたことがなかったのだろう。かなりの衝撃を受けたようだ。
「いいかい、よく聞きなよ。『モテたい』という願望は、『自分を好きになってくれた人を傷つけたい』とおなじ意味なんだ。
それでもきみはまだ、モテたいって思うのかい?」
「…………」
「きみは、自分を好きになってくれた人を傷つけて喜ぶような人間なのかい?」
「……………………」
幸坂美冬は、呆然(ぼうぜん)と立ちつくしている。
「きみはいま、モテるということの本当の意味を知った。それでもまだモテたいと言うのなら、きみの力になる気はない。二度と僕の前にあらわれないでほしいな」
賢策は踵(きびす)を返し、クールな足どりでこの場をあとにした。
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