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この条件をかならず守れると誓えるかい?
放課後になった。
賢策は教室をでたところで、
「須藤くん……」
不安げな女の声に呼びとめられた。
幸坂美冬だった。
小動物のような怯(おび)えた目で賢策のことを見ている。
「わたし、あれから須藤くんに言われたことを真剣に考えて、それで、あの、わたし……」
「また僕の前にあらわれたってことは、僕の問いには『ノー』ってことだよね?」
幸坂美冬は、うなずいて答えた。
「それでいい。『モテたい』なんて願望はエゴ以外のなにものでもないからね」
言って、賢策は微笑んでみせた。
幸坂美冬の顔に、ほっとした笑みがこぼれる。
「……わたし、須藤くんはすごくモテる人で、複数の女子と付き合ってるって聞いてたから、てっきりラブマスターって『モテる人』っていう意味だと思ったの。だからわたし、あんなことを……」
「たしかに、以前は複数の女の子と付き合ってたよ。でもそれは、本当の恋愛じゃないって気づいたんだ」
賢策は、ある出来事をきっかけに、誠一(せいいち)とカツオと3人で『いま幸せ』をはじめた。
それを機に、賢策はただひとりの女性を大切にするようになったのだ。
エゴが落ちて、目が醒(さ)めてからの賢策は、モテることを楽しんでいたときの自分を恥じている。
幸坂美冬に感じた怒りはかつての自分に対する怒り――それも、ちゃんとわかっている。だからこそ、努(つと)めてクールにふるまっているのだ。
「わたし、須藤くんに言われてやっと気づくことができた。
わたしが本当に望んでいることはモテることなんかじゃない、わたしの本当の願いはうまくいかない恋愛から卒業すること――
わたし、うまくいく恋愛ができるようになりたいの! そして、幸せになりたいの!」
「そうだね、それがきみの本心だと思うよ」
「須藤くん……わたしに、うまくいく恋愛のやり方、教えてくれる?」
「条件を、守れるのならね」
「条件!?」
「僕が知っている方法は、恋愛の本質をとらえたやり方なんだ。ちまたに出回っている恋愛攻略法や異性をオトす方法とは次元がちがうんだよ。
僕が知っている方法は、もっとも健全で、もっとも正攻法でありながら、きわめて効果的な方法なんだ。いわば『成就する恋愛の王道』ってところだよね」
「王道!」
「もちろん、この方法を実践(じっせん)したからと言って、どんな相手でも、かならずうまくいくわけじゃない。あたりまえのことだよね。人の自由意思は守られているのだから、相手がなんでも自分の思いどおりになるわけじゃない。
これは、あくまでも『うまくいく恋愛ができる自分になるための方法』なんだ。
相手の気持ちを思いどおりに変えることはできない。変えるのはあくまでも自分自身――そのことはちゃんと理解しておいてもらわないとね」
「だいじょうぶ。男の人がわたしの思いどおりにならないことは、ちゃんとわかってるわ。つらい想いをいっぱいしてきたから……」
「オーケー。それじゃ条件を言うよ」
幸坂美冬は固唾(かたず)をのみ、賢策の顔を見つめている。
賢策は、厳(おごそ)かに言った。
「教わった方法を決して悪用することなく、誠実で、幸せな恋愛を実現するためだけに活用すること――この条件をかならず守れると誓えるかい?」
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