2018年11月16日金曜日

分かち合うことで、悲しみを半分にできるのか?


今回は恋愛に関するエッセイです。

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『きみの微笑みが嬉しくて』の作中で、誠一(せいいち)のこんな思いが描写されています。

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 もし雅行さんが言ったみたいに、暮咲さんが背負っている重荷を俺が半分受けもつなんてことが本当にできるのなら、喜んでそうするよ。
 半分どころか、ぜんぶだって受けもちたい。代われるものなら代わってあげたい。
 だけど、実際にはそんなことできないんだ。

 人間の心は物じゃない。半分に分けたり取り替えたりなんてできないんだ。

第四章 俺は、好きだからこそ より抜粋。
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 誠一が思っているように、人の『感情』はモノではないので、半分に分け合ったり、足し合わせて2倍にしたり、といったことはできません。

『感情』自体を分けたり足したりといったことはできないのですが……

 じつは、それと同様のこと――いや、それ以上のことが可能だったりします。


想いを分かち合う


 きみの悲しみを、私が半分受けもちたい――
 きみの喜びを、私も喜ぶことで、喜びを2倍にしたい――

 そんなふうに、
  • 「悲しみ」や「怒り」などのマイナスの感情を、分かち合うことで半分にする
  • 「嬉しい」や「楽しい」などのプラスの感情を、足し合わせることで喜びを2倍にする

 そういったことは可能なのでしょうか?


怒りが一瞬にしてやわらぐ瞬間


 ここに、ちょっと怒りっぽい「ホンジョーくん」という人物がいるとします。
 この「ホンジョーくん」を使って、例をあげてみましょう。

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 ひどく腹立たしいことが、ホンジョーくんの身に起こりました。
 ホンジョーくんは怒りがおさまりません。

 やり場のない怒りに打ち震えながら、ホンジョーくんは親友に、そのときの出来事を話します。

 ホンジョーくんの親友は、その話を聞いて、憤(いきどお)りをあらわにこう言います。
「それはひどい! 許せないな!」

 その瞬間、ホンジョーくんは心がふっと軽くなるのを感じました。
 それは、ホンジョーくんの怒りが一瞬にしてやわらいだ瞬間でした――
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 こういったことは、たびたび起こります。
 経験している人もいるんじゃないかなぁ(笑


 なぜこのようなことが起こったのでしょう?

 ホンジョーくんの親友が、ホンジョーくんの「怒り」を半分うけもってくれたのでしょうか?

 いいえ、そうではありません。
 彼の親友は、ただホンジョーくんに共感しただけです。

 実は、この「共感」が鍵だったりします。

 ホンジョーくんの「怒り」がやわらいだ本当の理由――
 それは、親友に共感してもらえたことで、「一体感」を感じたからなんですね。


人が心の奥深いところから感じる喜び


 この心理メカニズムは、とてもシンプルです。

 人は潜在的に、「共感」や「一体感」というものに喜びを感じるようにできています。
 その理由として、人の『心』は無意識(潜在意識)の奥深いところでつながっていて「集合的無意識」を形成しており、『心』の世界では自他が一体であるからだという推測ができるのですが――


 いずれにせよ、人が「共感」や「一体感」に喜びを感じるのは確かなことです。

 さきほどの例で言うと、ホンジョーくんは親友に共感してもらえたことで、親友との「一体感」を感じました。
 それによって、『感情』のエネルギーが「喜び」の方向に流れだします。
 つまり、「怒り」の大部分が「喜び」に変換されたんですね。


 このようにマイナスの感情というのは、誰かに共感してもらえることで、軽減したり、解消したりすることが可能になります。


マイナス感情は、誰かが共感してくれると軽減する


 ほかのマイナスの感情でも同様です。

悲しくて泣き崩れているときに、誰かが一緒に涙を流してくれると、悲しみはやわらぎます

恐れに打ち震えているときに、仲間が、
「そんなときは、私だって怖いよ」
と言ってくれると、恐れはやわらぎます。


「共感」や「一体感」は、人の本質的な「喜び」ですので、強力なプラス感情です。

 悲しみ、怒り、恐れ――
 それらのマイナス感情に押しつぶされそうなとき、誰かがそばで共感してくれると、それだけで心が救われます。


プラスの感情に共感した場合は


 では、プラスの感情に共感した場合は、どうなるのでしょう?

 もちろん、プラス感情が増大します
 2倍どころではありません。
 3倍、4倍……ときには何十倍にも増大します。
「共感」、「一体感」というのは、それほどまでに強力なプラス感情なんですね。

あなたが何か楽しいことをやっているときに、誰かが一緒にそれを楽しんでくれたら、それは途方(とほう)もなく楽しくなります。

あなたが何かを愛(いと)おしんでいるときに、誰かが、
「私もそれ、好き」
と言ってくれたら、あなたはそれがたまらなく愛しくなります。

あなたに何か嬉しいことがあったときに、誰かが一緒にそれを喜んでくれたら、あなたは「至福」と呼べるほどの幸福感で満たされます。


女性は「共感」を潜在的に求めている


 この傾向は、一般的に女性のほうに強くあらわれます。

 女性のマインド(心)というのは潜在的に「協調主義」であり、人間関係を重視する傾向があります。
 つまり、他人との「つながり」を無意識レベルで強く求めているんですね。

 そのため、男性よりもずっと「共感」や「一体感」に敏感です。
 また、男性よりも「共感」や「一体感」に対して、大きな喜びを感じることができます。

 ですので――

 男性は、もっと「一緒に」という想いに敏感になりましょう(笑
 きっと、いいことがありますよ。


「嘆(なげ)き悲しんでいる人を見たら、一緒に悲しむ」
 それはとても大きな心の救いになります。

「楽しそうに笑っている人がいたら、一緒に笑う」
 それはこの上ない喜びを生みだします。

「一緒に」って、すごいことですよね。



このエッセイは、本条克明が以前に運営していた『本条克明ライターズブログ』というサイトに掲載した記事を改訂したものです。

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