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恋愛講義・第1回
はじめに
賢策と幸坂美冬は、空き教室へ移動した。
誰もいない教室。
使われていないので少し埃(ほこり)っぽい。
座席は整然とならべられている。
誰もいない教室。
使われていないので少し埃(ほこり)っぽい。
座席は整然とならべられている。
賢策は携帯を手にとり、
しばしメールのやりとりをしたあと、
教壇に立った。
しばしメールのやりとりをしたあと、
教壇に立った。
「とりあえず、どこでもいいから席につきなよ、幸坂」
「…………」
「どうしたんだい、そんな驚いた顔して?」
「あ、いえ……急に呼び捨てにされたからびっくりして……いちおう、わたしのほうが上級生だし」
「いちいち驚くようなことじゃないと思うな。僕らは師弟になったんだから、師匠が弟子を呼び捨てにするのはとうぜんのことなんだからね」
「そ、そうですね……すみません」
幸坂美冬は、教室の後方の席についた。
よく聞こえるように前にくればいいのに、
と賢策は苦笑まじりに思う。
彼女の自信のない性格が
座席の位置どりにあらわれていた。
よく聞こえるように前にくればいいのに、
と賢策は苦笑まじりに思う。
彼女の自信のない性格が
座席の位置どりにあらわれていた。
「ちなみに僕のことは『ラブマスター』か『先生』と呼ぶように」
「……はい」
「それじゃ、『ラブマスター直伝(じきでん)、恋愛講義』、第1回目をはじめよう」
「……あの、ラブマスター先生」
「ラブマスターか先生のどっちかでいいよ」
「じゃあ、先生……
第1回目ってことは、つづきがあるってことですか?」
「もちろん」
「……それじゃ、今日は『成就(じょうじゅ)する恋愛の王道』を教えてはくれないんですか?」
「そうやって先を急ぐのはよくないな。ものごとにはプロセスというものがあるんだからね。それを理解していない者はかならずつまずく。恋愛においてもね。
恋愛においては、あせったり、必死になったりするのはよくない。
媚(こ)びるような態度をとってしまうのもよくない。
嫉妬(しっと)にかられたり、相手を独占しようとする気持ちが全面にでてしまうのもよくない。
また、『私なんかじゃ……』と自己否定感にとらわれるのもよくない。
これらはみな、うまくいかない恋愛におちいる人の典型的なパターンだからね」
「どれもみな、思いあたります……」
失恋の痛手を思いだしたのか、
幸坂美冬は悲しげな顔になって
うつむいてしまった。
幸坂美冬は悲しげな顔になって
うつむいてしまった。
「だいじょうぶ、僕の言うとおりにやれば、かならず幸せな恋愛ができるようになるよ。誠一だって、僕の弟子なんだしね」
「誠一……?」
賢策は、中沢誠一(なかざわ せいいち)のことを話した。
誠一は、賢策のクラスメートであり親友だ。
誠一は、賢策のクラスメートであり親友だ。
誠一は、おなじクラスの暮咲香苗(くれさき かなえ)に
想いを寄せていた。
おとなしすぎる性格のせいで
暮咲香苗はいつもひとりぼっちだった。
誠一はそんな彼女のことをいつも気にかけていた。
想いを寄せていた。
おとなしすぎる性格のせいで
暮咲香苗はいつもひとりぼっちだった。
誠一はそんな彼女のことをいつも気にかけていた。
「その誠一に、僕がいろいろとアドバイスをしてあげたんだ。
誠一は僕のアドバイスにしたがって暮咲さんにアプローチし、恋を成就させた。
いまではラブマスターの僕が羨(うらや)ましいって思うほどのベストカップルだよ。学校の帰りも、いつも手をつないでるしね」
「あ、そのふたり、知ってる! ずっと手をつないでいて、ときどき目を合わせては微笑み合ったりして、すごく幸せそうなの。
わたしもあんな恋愛がしてみたい……」
わたしもあんな恋愛がしてみたい……」
「できるよ。僕の言うことを理解して正しく実践(じっせん)すればね。誠一だって僕の教えにしたがったから恋を成就できたんだしね」
誠一のケースを聞いたことで、
幸坂美冬の目は輝きだしていた。
そろそろ本題にはいってもいいころだ、
と賢策は判断した。
幸坂美冬の目は輝きだしていた。
そろそろ本題にはいってもいいころだ、
と賢策は判断した。
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