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6 メールのやりとりは「会いたい」という想いのさまたげになるのか?
「僕からのアドバイスは以上だよ。何か質問は?」
「……えっと、それじゃ、ひとつだけ」
「なんだい?」
「女性のほうからメールをすることで、メールのやりとりがうまくいくようになったと仮定して――
彼はメールでのコミュニケーションで満足してしまい、彼女に会いたいと思わなくなる可能性はありませんか?」
「いい質問だね! 着眼点がすばらしいよ。事前に想定しておくべき問題だからね。
たしかに、その可能性はゼロじゃないよね。現代人のなかには、直接相手に会うよりも、メールやネット上でのコミュニケーションを好(この)む人が少なくないからね。
といっても、相手が恋人や好意をいだいている異性の場合は、メールでのやりとりだけで満足する可能性は低いと言えるよね。
それどころか、メールでのやりとりによって『直接会って話したい』という欲求が高められていくことのほうが、ずっと多いんだよ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。メールだとノンバーバル情報を交換できないからね」
「のんばぁ……?」
「ノンバーバルというのは、『非言語』って意味だよ。
人は誰かとコミュニケーションをとるとき、言語だけを使っているわけじゃない。表情や、目線や、仕草(しぐさ)や、声のトーンなどのノンバーバル――非言語を使うことで、言葉では伝えきれない感情やニュアンスを相手に伝えているんだ。
でも、メールでのやりとりの場合は――」
「文字だけで表現するから、言葉に込めた感情が充分に伝わらないんですね」
「そう、そのとおりだよ!
受けとったほうは言葉の意味しかわからないから、その言葉に込められた相手の想(おも)いが気になってしまう。
送ったほうもまた、相手の反応が見えないから、自分の言葉がどのように受けとめられたのか気になってしまう。
メールでのコミュニケーションというのはもどかしさをともなうものなんだ。
そしてこのもどかしさは、『直接会って話したい』という想いを深めてくれるんだよ」
「なるほど……納得しました!」
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「ほかに何か質問は?」
「……いえ、ありません」
「オーケー、それじゃ今回の恋愛相談はここで終了しよう。もう充分に回答したしね。いや、充分すぎるくらいだったかな」
「須藤先輩……今日はわたしの相談に答えてくださって、ありがとうございました。
先輩のお話、とても励(はげ)みになりました。今日ここで先輩に教えてもらったことを何度も思い返して、しっかりと心に刻(きざ)みつけます。
いまはもう、彼がメールや電話をしなくなる理由がわかったから、落ち込んだりやきもきしたりすることなく、肯定的な気持ちで彼とやっていけそうな気がします。
本当に、ありがとうございました!」
「僕のほうこそ、ありがとう。
素直(すなお)な心で聞いてくれたから、アドバイスしやすかったし、すごく嬉しかったよ。
――それじゃ、幸せな恋愛を」
〈完〉
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