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相手が自分にふさわしいのかどうか、どうすればわかるのか? 〈美冬の質問〉
「それじゃ、今回の講義はこれで終わりにしよう。
何か質問はあるかい?」
「えっと、あの……ひとつだけいいですか?」
「なんだい?」
「さっきやった『ラブラブな恋愛』のイメージは、とても楽しかったです。幸せな気持ちが胸にわきあがってきました。
でも、わたしにはいま好きな人とかいないから、相手の男性のイメージがはっきりと思い浮かびませんでした。先生は『それでいい』って言ってくれましたけど、やっぱりちょっと不安です。
わたし、男性と会ったときに、相手がわたしにふさわしいのかどうか、ちゃんとわかるのでしょうか?」
「いい質問だね!
さっき僕は、『相手の姿は輪郭(りんかく)のはっきりしない影のような姿でかまわない。むしろそのほうが好ましい』って言ったよね。
この質問に対する答えは、そのことにも関係しているんだ。いいことを訊(き)いてくれたよ」
「そ、そうですか……わたし、あまり褒(ほ)められたことがないので、そんな言い方をされると、ちょっと恥ずかしいです」
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「異性と出会ったときに、その人が自分にふさわしいのかどうか、どうすればわかるのか?
これに対する答えはね、『とにかく、わかるもの』なんだよ」
「……………………」
「どうしたんだい、そんな顔して? もしかして、『答えになってない』と思ってるのかい」
「……はい」
「たしかに、そう思うのもムリはないよね。ちゃんと質問に答えてない、と言えばそのとおりだしね。
でもね、これについては本当にそうなんだよ。
幸せな恋愛をしている人、自分にふさわしい相手と付き合っていると言い切れる人――そういった人たちにこの質問をすると、みんなこう言うんだ。『うまく言えないけど、とにかくわかるものなんだ』ってね。
理由とか、理屈とか、そういったことは抜きで『この人だ』と直感的にわかるものなんだ」
「そうなんですか……わたし、そういう経験がないから、正直、信じられないです」
「それはね、幸坂はまだそういう異性と出会えてないからだよ。ただそれだけのこと。引け目を感じたり、不安になったりする必要はどこにもないよ。
でもね、自分にふさわしい相手に出会えているにもかかわらず、『この人だ』と気づくことができないケースもたしかにある。それは事実だよ。
そして、気づきをさまたげる要因としてもっとも多いのが、『相手のイメージを固定している』ということなんだ」
「イメージを固定……」
「相手の容姿であったり、肩書きであったり、経済力であったり――自分にふさわしい異性のイメージを『こうだ』と決めつけてしまうと、『運命の人』に出会えたとしても、気づけない可能性が高い。
自分の都合(つごう)でつくりあげた理想の異性像と、現実の『自分にふさわしい異性』とでは、少なからずギャップがあるものだからね」
「あ、そうか! だから、イメージをするときは、相手の姿をはっきりと思い浮かべないほうがいいんですね。わたしのなかで、理想の男性のイメージが固定されてしまうから」
「そう、そのとおりだよ。
イメージを固定している人は、そのイメージどおりじゃない異性はすべて『ちがう』と判断してしまう。本当は自分にぴったり合う異性が身近(みぢか)にいるにもかかわらず、自分の都合でつくりあげた理想像にとらわれて、貴重な出会いを台無しにしてしまう。
そうならないためにも、相手のイメージは固定しないほうがいいんだよ」
「なるほど……」
「どういう男性が幸坂にぴったり会うのか――それは誰にもわからない。
だけど、実際に出会えたときには、『この人だ』とわかってしまうものなんだ。
つまらないこだわりや、偏見をもたずに、ただ心をひらいていればいい。
そのときがきたら、ちゃんと『直感』が教えてくれるから、何も心配はいらないよ」
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「ほかにもまだ、質問はあるかい?」
「……いえ、もうないです」
「オーケー。それじゃ今日はここまでにしよう。つづきはまた次回に」
「あ、はい! 今日はありがとうございました!」
「今日、僕が話したことを何度も思い返して、しっかりと復習しておくようにね」
「はい!」
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こうして、1回目の恋愛講義は終了した。
次回は、1週間後――
またこの空(あ)き教室でおこなうことを告げて、賢策は幸坂美冬とわかれた。
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