**********
マユミと会話1 (プロムナード)
プロムナード(遊歩道)の起点にあたる場所に、ガゼボが設置されている。
柱と屋根だけでつくられた休憩所――壁のない開放的な建物のなかで、黒髪の女子高生がベンチに腰をおろしている。
スクールコートの下に着ているのはセーラー服で、賢策たちがかよう永習館高校の制服とは異なっている。
「マユミ、待たせてごめん」
賢策が声をかけると、黒髪の少女は微笑(ほほえ)みを返した。
「私もいまきたばかりなの。今日は遅くなるって賢策くんがメールをくれたから、私もゆっくりきたの」
幸坂美冬の相談にのることを決めたとき、賢策はマユミに『今日は遅くなるから先に帰っていい』とメールを送っていた。
それからほどなくして、マユミから『遅くなってもいいよ、私もゆっくり行くから』とメールが返ってきた。
たしかに、事前に遅くなることはマユミに伝えてあった。
しかし、マユミの「いまきたばかり」という言葉が事実かどうかはわからない。本当はだいぶ前からきていて、長いこと待っていた可能性もある。
だが、もしそうだとしてもマユミはそれを口にだしたりはしない。賢策が気まずい思いをしないように「いまきたばかり」と言うに決まっている。
マユミは、そういう女の子だった。
続きを読む