2018年12月18日火曜日

マユミと会話1(2)

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 賢策とマユミは、肩をならべてプロムナードを歩きはじめた。
 陽(ひ)はすでに暮れはじめている。


 駒橋真由美(こまはし まゆみ)とは、中学のときに知り合った。
 2年のときにおなじクラスになり、マユミのほうから恋をし、そしてふたりは付き合うようになった。

 高校へは別々の学校に進学した。マユミは現在、県内の女子校にかよっている。
 学校は別々になったが、帰りはいつもガゼボで待ち合わせをして、一緒にプロムナードを歩くのが日課になっていた。

 マユミは、歩きながら尋ねる。
「賢策くん、今日はどうして遅くなったの?」

「ちょっと予定外の用事がはいってね。放課後、恋愛相談をすることになったんだ」

「恋愛相談?」

 賢策は、幸坂美冬におこなった恋愛講義のことを、歩きながらマユミに話した。
 マユミは、興味深そうに賢策の話に聞きいっている。

「……そっか、相談にのってたんだ。
 でも、どうしてその幸坂さんって人に『先生』って呼ばせたの? 相手のほうが先輩なんでしょ?」

「それは、僕が教えたことを、幸坂先輩がより深く理解できるようにするためさ――」
 賢策は言う。
「師に対する敬意が教わる側(がわ)にないと、いくらためになることを教えてあげても心の奥までとどかないからね。
 本人は敬意をはらっているつもりでも、僕に対して『後輩』という意識があるうちは、どうしても無意識レベルで低く見てしまう。だから、行動でもって師に対する敬意をはらってもらうことにしたんだ。
 要するに、かたちからはいったってことだよ」

「そこまで考えてのことだったんだ。さすが賢策くんだね」

「まあね。僕は意味のないことなんてしないさ。わずか1ヶ月たらずで潜在意識レベルから変わってもらわないといけないんだからね。縦(たて)の信頼関係がちゃんと確立していることが絶対に必要だったんだ。
 信頼を得るために、ちょっとだけ誇張(こちょう)もしたけどね」

「誇張?」

「誠一のことだよ。あたかも僕のアドバイスのおかげで恋を成就(じょうじゅ)できたかのように話したけど、実際は僕がアドバイスをするまでもなく、あのふたりはうまくいったんだ。誠一と暮咲さんは、もともと好き合っていたんだからね。
 ……ま、なんにしても、幸坂先輩の信頼を得ることはできたと思ってるよ。僕の話をとても真剣に聞いてくれたしね。
 素直な心で聞いてくれるとアドバイスしやすいし、教えていてなんだかこっちのほうが嬉しくなってくるよ」

 マユミは笑みをたたえて、賢策の顔を見つめている。

 そして、マユミは笑みをたたえたまま、言った。
「私、賢策くんにむいてると思うよ。恋愛相談」

「…………」

 賢策は、歩きながら思案した。

 やがて、小さく肩をすくめて、
「……実感ないな」
 と応(こた)えた。

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