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「それじゃ、次は『顔』について考えてみようか。
やっぱり、顔は大事だよね。男性であれ女性であれ『人の魅力は顔にあらわれる』と言っても過言(かごん)じゃないよね」
「先生……そんな悲しくなるようなこと言わないでください。
わたしみたいに、美人じゃないし可愛(かわい)くもない顔に生まれてきたら、どうすることもできないじゃないですか……」
「そうやって、自分のことを『美人じゃない』とか『可愛くない』と決めつけるのはよくないな。
それに、僕が言っている『顔』は、かたちの善し悪しのことじゃなくて『表情』のことなんだ」
「表情……」
「表情というのはね、全人類共通なんだ。
国や人種、老若男女(ろうにゃくなんにょ)に関係なく、人はみな悲しいときには『悲しい顔』をし、嬉しいときには『嬉しい顔』をする。
その理由を心理学者のエクマンは、
『表情は人類へと進化する過程で形成されたため、全人類が共通の表情をもつようになったのだ』
というふうに説明している。
つまり、言語よりも古くから表情はあったということなんだ。
表情には、言葉よりも『想い』や『感情』を伝える力がある。
つまり、その人の『人柄』や『魅力』は表情にあらわれるということなんだ。
魅力的な人というのは、いい表情をしているものなんだよ。
美しい顔――本当の『美人』や『イケメン』というのは、いい表情をしている人のことを指すんだ」
「……いい表情って、どんな表情なんですか?」
「まず、表情が豊かであること――いつも無表情でいる人よりも、感情が表情になってあらわれる人のほうが活き活きとした顔になる。そういう顔は魅力的だし、異性からの好感度も高い。
そして、なんと言ってもやっぱり笑顔だよね、いちばんいい表情は」
「……わたし、笑顔にはあまり自信がありません」
「どうしてだい?」
「どうしてって言われても……わたしの笑った顔、魅力的じゃないから……」
「誰がそんなことを言ったんだい?」
「それは……」
「人から言われたわけじゃないよね?
そう、笑顔に自信がないって言っている人は、たいがい自分でそう決めつけているんだ。
誰であれ、笑顔というのは魅力的で、輝いているものさ。自分の笑顔は魅力的じゃない、なんて思いちがいだよ。
喜び、やさしさ、相手に対する好意――そのすべてが笑顔にはあらわれている。
『美人は三日で飽きる』って言うけど、笑顔を見飽きることなんてあり得ない。顔のかたちの善し悪しを超越した魅力が、笑顔にはあるんだ。
だから、自分の笑顔に引け目を感じるのは、もうやめにしよう。
そして、だしおしみをすることなく、たくさん笑うようにしてごらん。
そうすることで、見ちがえるほど『いい顔』になれるから」
「はい。これからは、できるだけ笑顔でいるように心がけます」
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「ほかにもまだ、質問はあるかい?」
「いえ、ありません」
「オーケー、それじゃ今日はここまでにしよう。つづきはまた次回に」
「はい! 今日はありがとうございました!」
「今日、僕が話したことを何度も思い返して、しっかりと復習しておくようにね」
「はい!」
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こうして、2回目の恋愛講義は終了した。
次回は、1週間後――
またこの空(あ)き教室でおこなうことを告げて、賢策は幸坂美冬とわかれた。
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