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「たくさん会うほうが恋愛は有利、というのは事実だよ。
でもね、会う機会が少ないからといって不利になるとはかぎらないんだ。むしろ、相手と会わないあいだに好感度があがっていくこともあるしね」
「どういうことですか?」
「これは心理学ではなく、潜在意識の性質に関する話になるけど、潜在意識はね、『イメージ』と『現実』の区別がついていないんだよ」
「それ、前回の講義でも教わりました。潜在意識にとって、イメージと現実はおなじだって」
「そうだね。
だから、たとえ会う頻度(ひんど)が少なくても、相手と会ったときに強い印象を与えることができれば、たくさん会うのと同様の――いや、それ以上の好感度を得ることができるんだよ。
たとえば、幸坂が好きな人と会ったときに、彼に強い印象を与えることができたとしよう。
その場合、彼は会っていないあいだにも幸坂のことが気になって、何度も幸坂のことを思いだす。
潜在意識は『イメージ』と『現実』の区別がついていない。だから、彼が幸坂のことを『思いだした』ということは、実際に会っているのとおなじ効果があるってことなんだ」
「なるほど……」
「印象ぶかく、くり返し想起される人というのは、潜在意識レベルで『熟知性の原則』がはたらくから、会う頻度が少なくても好感度があがっていく。
しかも、相手にプラスの印象を与えている場合は『ハロー効果』が加わるから、実際に会うよりも好感度があがったりするんだよ」
「ハロー効果?」
「ハロー効果というのは『印象によって相手のことを拡大して評価する』という意味の心理学用語だよ。
要するに、『いい印象を与えておくと、会っていないあいだに相手は幸坂のことをどんどん好きになっていく』ということだよね」
「まさに『会えない時間が愛を育てる』って感じですね」
「ふふ、そうだね」
「でも、『いい印象を与える』って、どうすればいいんですか?
くり返し思いだしてもらえるようなことをするのは、なんだかむずかしそうですけど……」
「それについては、もう幸坂に話してあるよ」
「…………?」
「相手がくり返し想起するような印象を与えるには、『好意をいだいていることをさりげなく伝える』というのがもっとも効果的なんだ。
誰だって『自分に気があるのかな?』と思ったら、その相手のことを意識しはじめるからね」
「好意をもっていることをさりげなく伝える――この講義で教わったこと、そのものですね」
「そうだね。だから、特に思いなやむ必要なんてないよ。ここで教わったことをそのまま実践(じっせん)すればいい。
とはいえ、『たくさん会うほうが好感度があがる』というのはまぎれもない真実なわけだから、会う機会があるのなら、なるべくたくさん会うようにしたほうがいいよね」
「はい」
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