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「まず、この『ゲイン・ロス効果』というのは、心理学ではポピュラーな理論ではあるんだけど、信憑性(しんぴょうせい)はあまり高くないんだ。この効果を否定する実験結果も存在してるしね。
そもそも、はじめにわるい印象からはいるってのが危険すぎるんだよ。
それに、この効果がはたらくにしても、その条件は限定的だしね」
「条件?」
「この効果がはたらくケースというのは、たいがい『強制的にずっと関(かか)わりつづけなければいけない』という関係のときなんだ。
たとえば、会社の上司と部下だったり、スポーツのコーチと選手だったり、そんなふうに、たとえ相手のことが嫌いでも深く関わっていかなければならないときに、この効果があらわれることがある。
嫌(いや)な人だけど、毎日会わなければいけない――
だから、がまんして会いつづける――
ある日、その人にやさしい面があることに気づく――
嫌な人から『いい人』へと評価が変わる――
ゲイン・ロス効果が起きるときというのは、だいたいこんな感じなんだ」
「それ、なんとなくわかります」
「そうだね。実際に起こり得ることだよね。
でも、恋愛においては起こらない可能性のほうがずっと高いんだ。
『強制的にずっと関わっていかなければいけない』というのは、たいがい上下の関係だからね。
恋愛における男女の関係は、上下関係じゃない。対等の関係だ。だから、『この人のこと嫌い』と思ったら、避(さ)けることができてしまう。
はじめにマイナスの印象からはいってしまうと、あとがつづかない――そこで恋愛が終わってしまう可能性がきわめて高いんだよ」
「なるほど……第一印象って大事なんですね」
「そうだよ。『熟知性の原則』のときも話したけど、相手にマイナスの印象を与えてしまったら、会えば会うほど好感度がさがっていくんだ。
最初にわるい印象からはいろうなんて無謀(むぼう)だよね。
それに、意図的にツンツンした態度をとるってことは、故意(こい)に相手を不快にさせるってことだしね。
そんなことをしておいて好かれようなんて、むしがよすぎるよね」
「たしかにそうですね。よく考えてみたら、おかしなことですよね。
でも、どうしてツンデレという概念(がいねん)がこんなにも普及してるんですか? マンガとかでも、ツンデレのキャラって人気があったりするし」
「それはね、そのほうがドラマチックだからだよ。最初から好感度が高いヒロインと結ばれても、物語としておもしろみに欠けるからね。
最初は嫌なやつからはいって、あとから好感度があがっていくほうが、ロマンスとしておもしろい。
だから、物語の世界ではツンデレ・キャラが多く描かれるんだよ」
「なるほど……」
「でも、現実は物語とはちがう。
最初に嫌なやつからはいったら、次からは相手にされなくなってしまう――それが、現実の恋愛だよ」
「それじゃ、やっぱり最初はいい印象からはいったほうが、好感度が確実にあがっていくってことですね」
「そうだね、そのとおりだよ」
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