2019年1月21日月曜日

恋とは? 〈講義〉

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恋とは? 〈講義〉



「それじゃ、あとひとつ――最後の話をしよう。
 唐突(とうとつ)だけど、『恋』ってどういうことだと思う?」

「う……本当に唐突ですね。
 そんなむずかしいことを急に訊(き)かれても、どう答えていいのかわかりません」

「むずかしく考えなくていいんだよ。べつに哲学的なすごい答えを期待してるわけじゃないんだからね。もっとシンプルに考えてごらん」

「そう言われても……やっぱりわからないです」

「まあ、たしかにふつうはこういったことを考えたりはしないよね。
 それに、ある意味正解だしね」

「……どういうことですか?」

「恋は、『頭で考えてやることではない』ってことさ。
 恋というのは、特定の異性を好きになるってことだよね。
 そして『好き』という想いは、思考ではなく『感情』だ。
 感情とは心の状態のこと――何かを『する』ではなく、その状態に『ある』とか『なる』というたぐいのものなんだ」

「なるほど……英語で言うと、『doing(ドゥーイング)』ではなく『being(ビーイング)』、ということですね」

「そう、そのとおりだよ。
 英語でたとえたついでに、『心』についても話そう。

 日本語では、『心』を意味する言葉は『心』だけだよね。
 でも英語では『mind(マインド)』と『heart(ハート)』という、ふたつの言葉で言いあらわされている。
 マインドは、思考や理性という意味での心――
 そしてハートは、感情や感覚という意味での心――
 このふたつの心のうち、直接『恋』に関係しているのは……」

「ハートのほうなんですね」

「そう、そのとおりだよ!
『恋』や『愛』というのは、考えて何かをすることではなく、ハートからわきあがってくるものなんだ」

「なるほど……」

「恋愛をしていると、自分の想いがわからなくなることがある。
 自分はどうしたいのか、
 この想いは本物なのだろうか、
 この恋愛は本当に正しいのだろうか……
 さまざまな疑念がうずまき、迷い、自分の気持ちがわからなくなることがある。

 そんなときは、理性や思考はいったん脇(わき)へしりぞけて、ハートの声に耳をかたむけてほしい。
 正しいか否(いな)かという理性的な判断は忘れて、自分の胸に問いかけてほしい――
 私は、彼のことが好きなのかどうか、と」

「……なんだか深い話ですね。ちょっと感動しました」

「恋というのはね、
『その人と一緒にいたり、その人のことを想ったりすると、心に喜びの感情がわきあがってくる』
 ということを意味してるんだよ。

 恋とは本来『幸せなもの』なんだ。
 そしてその『幸せ』は、ハートから喜びの感情としてやってくるんだ。
 だからもし『恋』で迷ったりつまずきそうになったら、ハートに問いかけてごらん。本当の答えは、そこにあるから」



「僕の話は、以上だよ。
 何か質問はあるかい?」

「いえ、何もありません。充分すぎるぐらいに、たくさん教えていただきましたから」

「オーケー、それじゃ、これで終了しよう」

美冬は起立し、
賢策にむかって一礼した。

「須藤先生! ありがとうございました! わたし、藁(わら)にもすがるような思いで先生に相談したんですけど、先生に相談して本当によかったです。
 こんなにも親身(しんみ)になって教えてくれるとは思ってもみなかったので、すごく嬉しかったです。
 本当に、ありがとうございましたっ!」

「僕のほうこそ、ありがとう。
 最初から最後まで、ずっと僕のことを信頼してくれたから、アドバイスのし甲斐(がい)があったし、すごく嬉しかったよ。
 それじゃ、これからも笑顔を忘れないようにね」

「はい!」

美冬の顔に明るい笑みがひろがった。
いままででいちばんいい笑顔だった。

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