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マユミと会話4 (プロムナード)
賢策とマユミは、肩をならべてプロムナードを歩いている。
「幸坂先輩、最後はすごくいい笑顔だったよ!」
賢策は、興奮した声で言う。
「正直、あんなにも変わるとは思ってもみなかったよ。僕のことを信頼して、素直(すなお)に言うことを聞いてくれたから、教えたことがことごとく身についたんだ。すごいよ、幸坂先輩は! 本当に、たいしたもんだよ!」
「賢策くん、すごく嬉しそうだね」
そう言って、マユミは笑みを浮かべた。嬉しそうな賢策を見るのが嬉しい、と言わんばかりに。
「そうだね。嬉しいよ、すごく」
そして、賢策は考えた――
この喜びはどこからきているのだろう?
その答えはすぐにわかった。
これは、賢策自身が癒(い)やされた証(あかし)なのだ。
マユミと付き合いはじめたのは中学のときだった。
だが、マユミと本当の意味での恋人同士になれたのは、誠一たちと『いま幸せ』をはじめてからだった。それまでの賢策は、マユミを『恋人』としながらも、ほかにも複数の女性と付き合っていた。
優越感や自己顕示欲(じこ・けんじよく)――そういったエゴを満たすために女性を利用していた。
マユミには、いつも冷たく接した。恋愛では男が優位に立っていなければいけない、という思いこみにとらわれていたのだ。
しかし、誠一たちと『いま幸せ』をはじめ、喜びと肯定感で心が満たされるようになった賢策は、本当の恋愛に目覚めた。
恋愛は駆け引きじゃない、ただ相手を大切に想い、ふたりでいることを楽しむ――それがすべてだと知った。
そして、自分がいままでしてきた不誠実な恋愛のせいで、いかに多くの女性を傷つけてきたか、大切な人をどれだけひどく傷つけてきたか、それを思い知ることとなり、自己嫌悪におちいった。
そしていま、賢策は思う――
誰かを幸せな恋愛へと導(みちび)いてあげることは、相手のためだけじゃない。それによって、僕自身も救われることになるんだ。
幸坂先輩の嬉しそうな笑顔が、それを教えてくれた。
「賢策くん、いいことしたね」
「そうだな……幸坂先輩にとっても、僕にとっても」
「私、これからもつづけたほうがいいと思うよ。恋愛相談」
「いや、講義は今日で終わりだよ。話すべきことは、もうぜんぶ話したしね」
「そうじゃなくて、『ほかにも恋愛のことでなやんでいる人がいたら、今回みたいに相談にのってあげたら』って意味だよ」
「……………………」
賢策は、思案した。
そして、つぶやくようにして、
「それも、いいかもしれないな」
と応(こた)えた。
「そうだよ! 絶対そうだよ!」
マユミは、賢策のつぶやきに満面の笑顔で賛同した。
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