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王道の実践法 〈講義〉
「それじゃ、具体的なやり方を説明するよ」
「はい」
「今後、幸坂が気になる男性と一緒にいるときは、これを心がけること――」
賢策は
赤いチョークを手にとり、
黒板に書いた。
赤いチョークを手にとり、
黒板に書いた。
「仲のいい恋人同士」のつもりで相手と接する
「と言ってもね、不自然になれなれしくする必要はないんだ。まだ敬語で話し合う関係なら、敬語で話したほうがいい。ものごとにはプロセスがあるんだからね。
自分を偽(いつわ)ったり、ちがう自分を演じたりする必要はない。等身大(とうしんだい)の自分のままでいいんだよ。
でも、『恋人同士のイメージ』が心のなかにある状態で彼と接すること。いいね?」
「……わたしにできるでしょうか? 正直、自信がありません」
「そうだね。
だから、最初に『幸せな恋愛のイメージ』をやって、そのヴィジョンを築いてもらったんだよ。
いまの幸坂には『幸せな恋愛』のイメージがあるよね。そのイメージのもとに相手と接するんだ。
と言っても、不自然にならないように、できる範囲でやること。
――目を見つめたり、好意的に微笑みかけたりすることは、交際する前からできることであると同時に、本来は恋人同士がすることでもあるよね。
それから、相手が話をしているときに前傾姿勢をとるのもいいよね。
ちょっとしたことだけど、前傾姿勢というのは相手に興味や関心、好意をもっていることを示すサインになるからね」
「好意をさりげなく伝える、というやつですね」
「そうだね。
でもこれは、それ以上のことを同時に伝えることになるんだ。
幸坂の『すでに恋人であるかのような態度』は、『幸坂と仲のいい恋人同士になったときのイメージ』を彼の潜在意識に伝えることになる。
幸坂となら仲のいい恋人同士になれる――そのイメージが彼の潜在意識に伝わっているのだから、彼が幸坂を選ぶ可能性はとても高くなるよね」
「……なんて言うか、驚きです。話を聞いているだけで、わたし、もう幸せになれたような気がしてきました」
「この方法の効果はそれだけじゃないんだ。これを実践(じっせん)するとね、自分自身の心理状態も変わってくるんだよ。
彼に対するあせりや不安が軽減する――
嫉妬(しっと)や独占欲が解消され、心に余裕(よゆう)ができる――
必死感や緊張がとれて、彼といることを心から楽しめる――
そういったことが起こるんだよ。
なぜなら、『仲のいい恋人であるかのように振る舞う』という行動が、幸坂の潜在意識に対する肯定暗示となって、精神的な余裕と、自信と、喜びの感情を呼び起こしてくれるからなんだ」
「なるほど……」
「僕がこの方法を教えるのに条件をだしたのは、この方法が『不誠実な恋愛』にも応用できてしまうからなんだ。
不特定多数の異性――誰彼(だれかれ)かまわず接するすべての異性に対してこれをやった場合、『モテるためのテクニック』として使うこともできてしまう。
実際、モテる人というのは、本人にその自覚があるかどうかにかかわらず、たいがいこれをやっている。
幸坂は、そんな使い方はしないと誓ってくれた。だから、惜(お)しまずにかなり踏みこんだところまで教えたんだよ。
この講義で教わったことは、大切に活用してほしいな」
「わたし、約束します。本当に好きになった人にだけ、この講義で教わったことを実践するって」
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