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「しかたないな。それじゃ、僕のほうからひとつだけ例を挙(あ)げるよ」
賢策は、座席から立ちあがった。
黒板へ移動し、チョークを手にとる。
黒板へ移動し、チョークを手にとる。
●わからないことを質問する
(彼を頼ることで、彼に良い気分になってもらう)
賢策は、黒板にそう書き記(しる)すと、
座席にはもどらずに、
教壇(きょうだん)から知子にむかって言った。
座席にはもどらずに、
教壇(きょうだん)から知子にむかって言った。
「何かわからないことを質問する――これはメールにかぎったことではなく、男性から言葉をひきだすのに、とても効果的な方法なんだ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。男性はね、頼られたりアドバイスを求められたりするのが大好きなんだ。男性は自分に能力があることを誇りに思う生き物だからね。
だから、彼に答えられそうなちょっとしたことを尋(たず)ねると、頼られた彼は『できる男』になったような気分になれる。彼の自尊心が刺激される。
彼をいい気分にさせることができるのだから、彼から回答のメールが返ってくる可能性は高くなるよね。
実際、へりくだって男性にものを尋ねる女性というのは、男性に好感をいだかれやすいんだよ」
「それ、わかります! わたしが所属している文芸部にも、そういう子がひとりいます。
その子、1年生で、ちょっと変わってるというか、いわゆる『天然系のドジっ娘(こ)』なんですけど、いまさら人には訊(き)けない、というたぐいの質問を、人懐(ひとなつ)っこい笑みを浮かべながら『……ってなんですかぁ?』のフレーズでためらいもなく訊いてくるんです。
でも部の男子たちは、あきれて見せながらもぜんぜん嫌(いや)がってる様子じゃなくて、むしろ嬉しそうに答えてあげてるんですよね。
『あんなつまらないことを訊いて好感度があがるなんて、ドジっ娘キャラは得だなぁ』って思ってたんですけど、ちゃんと理由があったんですね」
『あんなつまらないことを訊いて好感度があがるなんて、ドジっ娘キャラは得だなぁ』って思ってたんですけど、ちゃんと理由があったんですね」
「ふふ、そうだね。
相内さんも何かわからないことや、彼に答えられそうなことがあったら、彼に訊くようにしてみるといいよ」
「はい」
「……とまあ、こんな感じで思いついたことをどんどん挙げていってみよう。
さあ、相内さんも考えてみて――どんな内容にすれば、親しいあいだがらのメールになるだろう?
仲のいい友だちとのやりとりを思いだしてごらん」
「えっと、それじゃ……簡単な提案のようなものをしてみる、というのはどうでしょうか?
たとえば、『このあいだ友だちと行ったどこそこの店のケーキがおいしかったから、こんど一緒に行ってみない?』といった感じで」
「いいね、すばらしいよ!」
賢策は、知子の案を黒板に書き記した。
●軽い気持ちで、彼に簡単な提案をする
「こういったメールは、男性が受けいれやすいメールだと言えるよね。
男性は一般的に、用がなければメールをしない。男性同士では、用を伝え合うための道具としてメールを使っている。だから、簡単な提案や、軽い誘いの文面の場合は、『用を伝えてきた』というふうに男性は解釈する。
彼がこのメールを前向きに受けいれる可能性は高いと言えるよね。
いいね、すごくいいアイデアだと思うよ」
「そ、そうですか……? そんなに褒(ほ)められると、なんだかちょっと照れくさいです」
「ほかには、何かないかな?」
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